古文の読み方(4)

古文の学習で最も悩ましいのは、述部の「用言+助動詞」ではないでしょうか。そこには、日本語の「活用」という現象が複雑にからんでくるからです。

その「活用」は、「古典文法」の「用言の活用表」にほれぼれするくらいにきれいに、まとめられています。それは、私たちにはよく見慣れた「50音図表」が土台になっています。この「50音図表」には、日本語のエキスが凝縮されていて、古文(日本語)の学習には欠かせないものです。
「用言の活用表」を暗記する前に、「50音図表」を手元に置いて、日本語の<活用という現象>を自分の頭で考えてみてください。

「活用」とは、用言(動詞と形容詞)が品詞の異なる語を後ろに接続(従える)した時に、<語末の音を変える現象>です。
多くは、助動詞を後ろに付けた時の判別と、その解釈が問題となるでしょう。と言うのも助動詞も活用するし、しかも複数の助動詞が接続(連接)するケースが多いからです。

活用する語は「終止形」にする。

活用を暗記する前に、活用する語は「終止形」にする練習をしてみてください。下記は例文です。

六条わたりの(おほん)忍び(あり)きのころ、内裏(うち)よりまかでたまふ中宿(なかやどり)に、大弐(だいに)乳母(めのと)のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて、五条なる家尋ねておはしたり。

上の例文には動詞が7つあります。
それぞれの動詞を「終止形」で示すと下記のようになります。
(あり)き → 「(あり)く」 まかで  → 「まかづ」  わづらひ → 「わづらふ」
なり → 「なる」 とぶらは → 「とぶらふ」 尋ね → 「尋ぬ」 おはし → 「おはす」

語の基本形は「終止形」で、辞書を引く時は「終止形」に直して引きます。これは、現代語でも同じですから、常識の範囲ですね。

動詞の終止形は、「う(u)」音が基本です。
例外が少しありますが、それは別に覚えましょう。
最重要語である「あり」の終止形が「い(i)」音であることは、頭に入れておきましょう。
活用は、「あいうえお」の母音が土台となって、「子音の段」の中で音変化します。「か」段であれば「かきくけこ」、つまり「k(a) ・k(i)・ k(u)・ k(e)・ k(o)」ですね。

例文の一部の「尼になりにける」の語構成と活用の変音化を見てみましょう。

文末表現

出来るだけ「品詞分解」は控えたいと思っていますが、語の構成が分からなくては、音読時の区切りも、語の意味調べられないので、基礎知識として「語の識別」は出来るようにしてください。80~90%は、現代日本語の感覚で判別できるでしょう。分かりにくいのは「助動詞」です。

尼(名詞)・に(助詞)・なり(動詞)・に(助動詞)・ける(助動詞)

読み慣れれば、特に音読で読み慣れれば、日本語の感覚で判別(識別)出来るようになります。文法という知識から入るよりも、現在身についている「日本語の感覚」を自覚して、これまた自覚した「自らの声」で本文を読むことを優先させてください。

単文「尼になりにける」の意味は、当然、前後の文脈から判断しなければなりません。

「違和感」と「疑問」:例外に気づく

「尼になりにける」で文が止まる、感覚的に違和感を感じませんか?
「尼になりにけり」とすれば、日本語として落ち着きます。なぜ、「終止形」でなく、「連体形」で止まるのでしょう?
「連体形」とは、語の意味の通り「体言に連なる形」です。「尼になりにける→(おんな、娘)」といった体言(名詞)を予想させる止まり方です。
このように古文を読んでいる時に感じる「違和感」と「疑問」を大切にしましょう。そのような箇所には、多く「古文特有の規則」が使われています。その違和感を解消するのが「文法」です。大切なことは、その違和感を強く感じるのは「音読」をしている時である、ということです。

大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて

この文は、現代語にするには、下記のような語順になります。

いたくわづらひて尼になりにける大弐の乳母を、とぶらはむとて

文法では、「大弐の乳母」の「の」を、同格の「の」と命名して、『大弐の乳母=いたくわづらひて尼になりにける』と判断して、現代語に訳すときは「いたくわづらひて尼になりにける大弐の乳母を」とします。

平安朝の女房文学によく使われる表現ですから覚えておいてください。

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